代表者である吉田 英憲と、そのほかさまざまな得意分野をもつ経営コンサルタント・中小企業診断士(広島県在住)が、専門知識と経験から得た「役に立つ」情報をまとめたフリー情報紙(企業支援者向け)です。
ローカルベンチマークとは?
今回は、前号でお話したローカルベンチマークをご紹介したいと思います。経済産業省によれば、ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)として、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されるとしております。
ローカルベンチマークでは、大きく2つの分野があり、一つは財務情報を中心とした分野、もう一つは非財務情報を中心とした分野です。財務情報については、対象企業の決算数値を入力すれば、対象企業の状況を6つの指標で業種別(11業種)の観点からに点数化され、全体評価も算出されます。その6つの指標とは、①売上高増加率(売上持続性)、②営業利益率(収益性)、③労働生産性(生産性)、④EBITDA有利子負債倍率(健全性)、⑤営業運転資本回転期間(効率性)、⑥自己資本比率(安全性)で、経営分析でお目にかかる指標が盛り込まれています。
もう1つの分野は、非財務情報の把握です。①経営者への着目、②関係者への着目、③事業への着目、④内部管理体制への着目の4つ視点で質問項目が多岐わたっています。支援企業の業務を理解するという視点では、「非財務ヒアリングシート②」にある、業務フロー分析が特色です。こちらは、知的資産経営の要素を取り入れたものであり、企業がおこなう業務(営業・製造など)が他社との差別化を生み出し、顧客に価値を与えるという考え方をベースにしています。もちろん差別化の要素が、業務フローだけに限定されるものでありません。一例を挙げると、ビジネスアイデアそのものが差別化であったり、業容拡大・多角化によるワンストップサービスによる差別化であったりします。しかし、多くの企業が業務レベルにおいて他社との差別化を実現しているため、一考すべき内容です。この業務フロー分析により、企業がどのような特色で顧客から支持を集めているか?また、企業にとってどこがウィークポイントなのか?を把握することできます。
この点において、経済産業省が提案しているローカルベンチマークのあり方、すなわち、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として有効です。ただし、このローカルベンチマークは所詮、事業性評価の「入口」に過ぎないということが留意すべきです。「入口」と表現されるように、ローカルベンチマークでは、言わば、企業経営者と金融機関・支援機関における、当該企業に対する理解・認識の一致というステージに留まります。現状に対する、深い共通理解と言ってもよいかもしれません。
そのため、このローカルベンチマークのシートをまとめても、これからの経営計画(戦略・数値計画)などはすぐに作成できるものではありません(もちろん現状把握としては有効です)。ローカルベンチマークと経営計画の繋がりが、今後検討すべき課題であると言えます。先月、ある金融機関とその取引先様で、このローカルベンチマークの導入検証の支援をおこないました。そこで感じたことを、またお伝えできたらと思います。
※ローカルベンチマークについてはhttp://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/をご参照ください。ローカルベンチマークのツールもダウンロードできます。
<11月号の記事>
「捨てられる銀行」 橋本卓典 著(講談社新書)
ショッキングなタイトルで驚かれる方もいらっしゃるのではないかと思います。「捨てられる銀行」というタイトルを見て、地域の金融機関が多い、オーバーバンキングという言葉を想起される方もいらっしゃると思います。本書の切り口は、金融機関の量の視点ではなく、質の視点で金融機関の現状と今後について記載された一冊です。
本書は大きく4部構成になっており、第1章「金融庁の大転換」第2章「改革に燃える3人」では、金融庁を中心に金融行政の転換にあたっての金融庁の問題意識と、その経緯、そして、金融行政・金融機関改革を行う森金融庁長官をはじめとした3名の人物模様が描かれています。
第3章では、金融機関にフォーカスが当てられ、 1999年7月に公表された金融検査マニュアルの頃からの状況を記しています。特に金融検査マニュアルにより、地域金融機関の思考を硬直化している一要因であると指摘しており、信用保証協会による保証制度による目利き力の喪失などの金融機関の現状が記されています。第4章は、事例紹介として、変わろうとしている金融機関4行の取り組み事例が紹介されています。
このように、地域金融機関を取り巻く動向について、まとめられた一冊です。金融検査マニュアルの登場で金融機関が変わったように、廃止により金融機関が変わる可能性があります。経営者と金融機関の話題になったときに、会話にも使える一冊だと思います。
本書を読んで「金融検査マニュアル導入前は、昔のバンカーは会社を見て、そして経営者の目を見てお金を貸していた」という元金融機関OBのコメントを思い出しました。今回の一連の取り組みは金融機関による、目利き力の復活とも言えるかも知れません。
なお、本書に記載されている「事業性評価」と関連しているものが「ローカルベンチマーク」です。経済産業省によれば、ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)として、企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されるとしております。ローカルベンチマークについては、次号お伝えします。
<10月号の記事(1)>
「全国の経営指導員のうち、今日、何人の経営指導員が研修を受けていますか?」
この質問は先日、商工会の経営指導員を対象に実施した研修での問題です。この問題に即答できる方はおそらく、いらっしゃらないかと思います。
「外部情報を企業の経営計画策定にいかに活かすか」という研修テーマのご依頼を受け、外部情報の出所だけではなく、活用の仕方をお伝えしました。
分析において、さまざまな外部情報を組み合わせたり、抽出したりする一方で、必ずしも自分たちが得たいデータが存在しないこともよくあります。
そこで、今回の研修でお伝えしたのが「フェルミ推定」という考え方です。フェルミ推定とは特定できない数値や、実際に調査するのが難しいような数値(市場規模)を、さまざまな考え方や手がかりから論理的に推測し、短期間で計算することです。近年では、コンサルティング会社や外資系企業の採用試験に活用されています。
冒頭の問題の「全国の経営指導員のうち、今日、何人の経営指導員が研修を受けていますか?」についても、参加した経営指導員の方は「全国の経営指導員数」「自分自身が年間受講する研修日数」「研修実施時期」などを手がかりに、受講人数を推定していました。発表を聞いたところ、論理的に検討された、よい推定ができた印象でした。その後、中小企業の経営計画策定に関連した、フェルミ推定の演習を通じて、企業ごとに異なる外部情報の調査方法やフェルミ推定の実施方法を習得してもらいました。
中小企業の経営計画における、外部環境分析(今回で言えばフェルミ推定)の目的は、精緻な分析結果を導くことというよりも、企業経営者が、狙いたい市場に向けた期待と自信を醸成することだと思います(その反対で諦めることもあります)。市場規模の推定により、経営計画の実現可能性をより高め、そのことにより、経営者に自信を持たせることになります。そして、行動後、成果が実際に出たのかどうか検証をすすめます。このような支援が伴走型支援の一つの形だと私は思っております。
フェルミ推定を詳しく知りたい方は、『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』(細谷 功著:東洋経済新報社)、「過去問で鍛える地頭力」(大石 哲之著:東洋経済新報社)などを読めば、基本的な理解ができると思います。ただし、読むだけで終わらず、関与されている企業の経営計画策定において、市場規模などを検討する方がより実践的ですので、是非一度トライされてはいかがでしょうか?
<10月号の記事(2)>
「未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略」 細田高広著(ダイヤモンド社)
現在、複数企業において、ビジョン策定のご支援をしております。どの企業でもイメージが沸く分かりやすいスローガンやキャッチフレーズを希望されており、その参考となる本をご紹介します。
本書は大きく2部構成になっており、前半は「未来を発明したビジョナリーワード」(「時代」「組織」「商品・サービス」を発明した、それぞれ言葉)の事例紹介とその背景の解説があります。例えば以下のような言葉で、みなさんもご存じのビジョナリーワードがあるかも知れません。
【時代】
・10年以内に人類を月に送り込む(ジョン・F・ケネディ)
・世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする(グーグル)
【組織】
・地上でいちばん幸せな場所(ウォルト・ディズニー)
・僕たちはエンジニアじゃなくてアーティストなんだ(スティーブ・ジョブズ)
【商品・サービス】
・第三の場所(ハワード・シュルツ/スターバックス)
・通過する駅から、集う駅へ(「エキュート/JR東日本」)
後半はビジョナリーワードの作成について、3つの要件とステップについて説明されています。その要件とは、絵はがきに例えて、「解像度」「目的地までの距離」「風景の魅力」としており、「ビジョンの内容が具体的か?」「ビジョンまで到達できそうか?(到達可能性)」「ビジョンの内容が魅力的か?」とも言い換えることができるかと思います。
また、ビジョナリーワードの作成ステップとして「言葉をつくる」「ひっくり返す」「喩える」「ずらす」「反対を組み合わせる」といった手法が説明されています。
具体的な事例を用いながら、説明されているので、訪問先の企業の経営者の言葉から、よいよいビジョナリーワードを作成する手がかりとして活用できるオススメの一冊です。
<9月号の記事>
名選手必ずしも名監督にあらず
「名選手必ずしも名監督にあらず」とよく言われます。ビジネスの場でも同じく、営業成績がよかった方が管理職に昇格すると、自らの役割を十分に認識できずに、社長の期待通りに行動できていないケースが見られます。
先日、ある社長から管理職に対する相談を受けました。社長と管理職とは、その部門方針について共有認識を持っているものの、管理職が社長の期待通りの動きをしてくれないと社長が悩んでいらっしゃいました。管理職だから、あれこれ指示する必要もなく自発的に動いて欲しいという社長の方針もあり、ある程度任せていたようでした。
どの会社でも聞くような話です。その管理職の能力にも原因があるかも知れないものの、実は管理職が何をなすべきか具体的に理解していなかったことが原因の一つでもありました。
そこで、状況対応リーダーシップ(Situational Leadership:SL理論)という考え方を社長に紹介しました。
この考え方とは、部下の成熟度によってリーダシップのスタイルを変えていく必要があるという考え方です。指示的行動と支援的行動の2つの軸によってリーダーシップを4つに分けています。各リーダーシップを右の図に沿って説明すると以下の通りです。
S1:指示型リーダー
部下に具体的に指示しながら、業務を監督する。対等の立場での支援的行動はとらない。新入社員などに対して効果的な型。
S2:コーチ型リーダー
リーダーが考えを説明し、部下の疑問に応えながら業務を進める。部下に考えさせたり意見を求めたりする。積極的に指示的、支援行動をとる。ある程度業務の状況が把握できている入社5年目以下程度の社員に効果的な型。
S3:支援型リーダー
リーダーは、部下の自主性を促すための激励や環境整備を行う。リーダーと部下の考えを融合させ意思決定するようにする。指示的行動はあまりとらず、対等の立場での支援的行動をとる。業務の実情を自分と同程度知っている中堅社員に効果的な型。
S4:委任型リーダー
部下に仕事遂行の責任を委ねる。権限や責任を委譲し、極力管理しないようにする。業務の実情に関して自分より詳しいベテラン社員に対して効果的な型
この考え方は、同一職種における新入社員〜ベテラン社員との関係性で使われることがありますが、社長と管理職の関係においても活用できます。中小企業において、管理職になった方は、経営層が管理職の役割を明確にしていないことが多く、人によって役割認識の理解は様々です。
相談を受けた社長にこの図を見せたところ、自身の管理職に対する接し方はS3・S4であったものの、管理職は自分自身の役割を理解しておらず、S1〜S2からは始めないといけなかったと反省されていらっしゃいました。ということで早速、その管理職に期待する業務を社長自ら書き出して頂くことにしました。
管理職の業務は非定型業務が多いものの、改めて経営者が期待する業務を書き出し共有することで、相互理解が進み管理職が期待する行動を促すことができると思います。
<8月号の記事>
Amazonの読み放題サービス
8月3日、アマゾンジャパンの電子書籍読み放題サービス「Kindle Unlimited」(キンドル アンリミテッド)がサービス開始されました(https://www.amazon.co.jp/gp/kindle/ku/sign-up
)。
月額980円で約12万冊の書籍やマンガ、雑誌などが読み放題というサービスです。皆さまはご利用されましたか?私はAmazonで電子書籍を利用しているので、30日無料体験に申込みをしました。そこで、使用した感想をお伝えしたいと思います。
●10冊まで借りられることの手軽さ
「Kindle Unlimited」では、図書館のように冊数制限があり、現在は10冊まで登録することができます。気になった本を登録することができるので、あっという間に10冊に達してしまいます。
●お試しからの購入促進
読み放題といっても、この10冊という登録制限という点が、Amazonのビジネスモデルの上手いところであり、興味がある本は電子書籍でも紙媒体でも購入したいという気にさせます。私自身「Kindle Unlimited」で見つけた本を、手元に置いておきたいという衝動から紙媒体を購入しました。
●12万冊の書籍量
12万冊といっても、必ずしも自分が読みたい本があるわけでもありません。むしろ、新たな本・ジャンルとの出会いのきっかけと思った方がいいかも知れません。通常、買わない本を試しに読んでみようか、新しいジャンルの事を調べることになったが、手始めに「Kindle Unlimited」で探してみようかという気軽な気持ちで利用した方がいいかも知れません。「Kindle Unlimited」には、同サイトの人気の書籍コーナーありますので、出会いのきっかけにもなります。
以上が、2週間ほど利用した感想です。「Kindle Unlimited」そして「Kindle」はスマホ、タブレット、パソコンで閲覧することができます。ただし、スマホ、パソコンの場合は機器の仕様上、どうしても画面が小さくなることがあります。たとえば、パソコンで雑誌などを読むと、1画面に見開き2ページで表示されるので、拡大しないと読みづらいです(ほかにもやり方があるかも知れませんが・・・)。本格的な使用をするのであれば、ある程度の大きさのタブレットの使用をお勧めします。
<7月号の記事(1)>
ポジショニングの重要性(2)
先月、ポジショニングの重要性について、お伝えしました。ポジショニングの設定には、競合との差別化を意識するだけではなく、お客様の頭の中をイメージしながら設定する必要があります。
「競合との差別化」「お客様の頭の中」の2つ視点を質問形式で検討するとすれば、お客さまから見て「他社と違って、○○だから、あなたから買うよ」「今まで、買うつもりはなかったけど、○○だから、あなたから買うよ」という質問に、真正面から回答できるかどうかだと思います。これらの質問に十分に答えられていない場合は、たとえターゲットが明確でも、ポジショニングが十分でない可能性があります。なお、マーケティング理論でよく見られる、ポジショニングマップも上記の質問の回答を得るためのツールの1つに過ぎないと考えています。
類似品が多い商品・サービスでも、その会社の歴史・考え方・原料・製法・こだわりを知ると、その話を聞く前に比べて、お客さまにとって他社との違いが明確になれば、商品が類似品とは別物に写る可能性があります。
また、お客さまのお困りごとに焦点を当てるのも、ポジショニングの構築の1つの手法です。お客様から見れば、自分の問題解決のお手伝いをしてくれる専門の方と思ってもらえます。そのときに他社とどう違うのかが、より明確にする必要があります。そうすれば、お客様の頭の中には、自社がより際立つものになるでしょう。
このように、お客様から見て「自社は他社と違ってどのように見えているのか」という視点に立つと、ポジショニングが見えてきます。では、何から始めれば、自社の新しいポジショニングが見えてくるのでしょう?事業の方向性が大きく変わらないのであれば、自社を振り返る、特に「お客さまからの褒め言葉」に耳を傾けることが重要となります。何気なく対応していたことが、お客さまから意外に評価されていることがあります。ある企業の支援において、顧客満足度調査をしたところ、自社の強みと思っていたことがそれほど評価されていませんでした。実は、その強みは他社でも同じようなPRをされており、お客様にとっては大した差別化となっていなかったようです。一方で、その企業の「ある対応」は、「ある一部のお客様」に大変評価を受けていました。これを新しいポジショニングの原型とし、自社のポジショニングを磨き上げていきました。また、一定のターゲットに絞ったポジショニングも設定しました。ターゲットに合わせたポジショニングの打ち出し方をすれば、PRや営業の手法が変わってきます。
前回もお伝えしましたが、ポジショニングは自社の戦略・ブランドと大きく関わってきます。ポジショニングは「覚悟」です。お客様から見た、立ち位置を選ぶ覚悟であり、その一方で、その他の立ち位置を捨てる覚悟とも言えます。そして、選んだポジショニングを貫く勇気も時には必要になります。更には、そのポジショニングを唯一無二の立ち位置にするには相当な時間がかかり忍耐も必要です。ブランド作りには10年かかると言われるのも、それを表していると考えています。
戦略・ブランドを考えるときにポジショニングの視点も組み込むことを是非ご検討ください。
<7月号の記事(2)>オススメ本のご紹介
あなたの「弱み」を売りなさい。 戦わずに売る 新しいブランド戦略 川上 徹也 著
先程のコーナーでポジショニングについてお伝えさせて頂きました。本書は2012年に発売された「星が岡のチンパンジー」に加筆修正されたもので、ブランド戦略・ポジショニングの重要性について、物語を織り交ぜながら説明しています。前半は、架空世界での飲食店のブランド構築の物語となっています。競合店が自店と同じコンセプトで出店し、料理をマネし、更には値下げ競争にも追随していくなかで、差別化をどう図っていくか、自社のブランド・ポジショニングを主人公が考えながら競合に打ち克っていきます。後半は物語の解説で、ストーリーブランディングと称して、「志」「独自化のポイント」「魅力的なエピソード」の3点から、ブランド化の解説をしています。最後にワークシートもありますので、自社もしくは担当企業を例に当てはめて考えていくとこの本のポイントが掴めるかと思います。ポジショニングやブランド作りに関心がある方にはオススメの一冊です。
<6月号の記事>
ポジションニングの重要性
仕事柄、業績が良い企業、業績が芳しくない企業をお伺いすることがあります。その違いを改めて考えると、業績が良い企業はその企業のポジショニングが明確であるということを感じます。
ポジションニングとは、位置どりを意味します。このポジショニングには2つのステップがあります。最初のステップとして、どのような市場でポジショニングをしているのかという、戦う土俵選びです。土俵というと○○業界という分け方が一般的であり、競合が多い業界もあれば、競合が少ない業界もあります。業界を一括りでは大きすぎる場合は、更にエリアや取引先の業種などに細分化することもあります。業績が堅調な企業は、この土俵をうまく選んでいます。例えば、大手が参入しないニッチな市場を狙うということなどは、土俵選びの典型例です。
次のステップとして、その土俵の中で、どう位置どりするかを検討することになります。他社と差別化し、顧客からどう選ばれるかを考えながら、自社のポジションを考えていきます。これは事業においても、商品・サービスにおいても同じ事です。例えばB to Bビジネスにおいては、大手企業からの下請け業務でも、どこでもできる業務であれば、価格が主な決定要素になりがちですが、大手企業が困っていることに焦点を当てたポジショニングとなれば、むしろ大手企業に有り難い、頼りになる存在になります。そのようなポジショニングであれば、利益確保も十分に可能です。上記はあくまで一例であり、このポジショニングの設定には、競合との差別化を意識するだけでなく、お客様の頭の中を考えながら想定しなければ、自己満足の事業や商品になってしまいがちです。
このポジショニングこそが自社の戦略やブランドと大きく関わってきます。自社の将来ビジョンを考えるときに、今後の自社のポジショニングも改めて考えることをおすすめいたします。
<5月号の記事>
業務フロー(流れ)から見出す
現在、支援先2社で業務フロー分析をおこなっております。1社は、業務フローの分析による、業務改善です。製造業で例を挙げると、顧客からの引き合いや原料調達をスタートとして、どのような流れで製品出荷・アフターフォローをおこなっているのかを掘り下げていきます。このような整理をしていくと、「特定の人しか知らない」「基準が明確に決まっていない」など不明点や、全体最適の視点ではムダがあるなどの改善点が見えてきます。工程の一部分しか知らない社員にとっては、自工程においては最適でも、全体から見れば最適ではないことも発見することができます。会社全体の流れを知ることで、視野が広がり、会社全体の改善点が見えてくるようになります。
もう1社は、当社の強みの洗い出しです。営業・製造・検査・調達などの様々な部門の社員が集まり、他社と比べて自社が評価されている点はどこかを整理していきます。一部の社員しか知らなかった、当社の強みが共有されると、「その強みをより強めるためにはどうすればいいか?」「競合が秀でている強みに打ち克つはどうすればいいか?」を考えます。参加した社員間での強みの共通認識ができると同時に、今の強みの強化・新たな強みの構築のためのアクションが生み出されます。
この2つの業務フローは表向きの目的は違えど、裏の(真の)目的は後継者・幹部人材育成です。部分最適ではなく全体最適の視点で、会社の将来をどうすべきかを考えられる人材を育てることを狙いとしております。今回の2社に限らず、過去にも同様のプロジェクトを進めてきた経験から、このような場こそ、社長を支える人材が育つ場、また事業承継を円滑に進める場の1つと考えております。
<4月号の記事(1)> オススメ本のご紹介
選ばれる理由 武井則夫著
営業・マーケティングの支援をする際に、必ずお伝えするのが、お客様から「選ばれる理由」づくりです。お客さまが商品を選ぶ際には、「直感的」「心情的」「合理的」などさまざまな価値基準があり、それらを想定しながら、企業が商品・サービスを生み出すことが重要です。本書は、そのヒントとなる1冊です。特に、高付加価値な商品を提供している企業にとっては有用な一冊です。
「選ばれる理由」の書名にあるとおり、選ばれる理由をどう組み立てていくのかというヒントが数多く記載されています。例えば、「自社紹介をする際に必ず触れていることは?」「いくつかの条件を重ね合わせるとNO.1になることはあるか?」など「選ばれる理由」作り出すヒントを示してくれています。また、技術力といった抽象的な表現を、「他社と比べて」「業界平均と比べて」「過去と比べて」といった視点から、より言い換えるコツなども記載されています。
合わせて、伝えたいお客さまの誰かという「ターゲットの明確化」や、高付加価値商品の販売によく見られる、ストーリーを活用した提案を10の法則でまとめられています。たとえば、「商品が生まれたエピソード・苦労話」「お客様と自社の間で起きたエピソード」などの法則があり、1つ1つを掘り起こしながら、お客様の選ばれる理由を作り上げていくことができます。また、建設業・サービス業で重要な「人」「理念」にフォーカスした選ばれる理由づくりについても記載があり、幅広い業種で活用できる一冊です。
本書の中には、既に知られている視点・手法はあるものの、チェックリストとして自社に欠けているものはないかという点で再確認するのも一案かと思います。
<4月号の記事(2)>
書籍「選ばれる理由」を紹介しましたが、営業・マーケティングにおいては、「選ばれる理由」づくりだけでは不十分な場合が多いです。それは、実際にお客様にどういう手段で伝え、知ってもらうことがなければ、選ばれないからです。
右に示した図は、マーケティングファネルと呼ばれます。ファネルとは「漏斗(ろうと)」という意味で、ここでは2つの漏斗が向きを変えて並んでいるように見えます。「選ばれる理由」にもあるとおり、どのようなお客様に伝えたいのかというターゲットを明確にして、そのターゲットがどこで、どうやって知ってもらいたいのかを考えていきます。知ってもらう場面は、店頭であったり、チラシであったり、ホームページ、スマホであったり様々です。そこで認知してもらって初めて、「選ばれる理由」が本領発揮します。他社と比べてどうちがうのか?という点をしっかりとPRできれば、お客様が比較検討した結果、最終的に当社が選ばれ、購入へと至ります。その後のフォローをしながら、再購入を促すことで、リピート顧客となっていきます。今、自社がどこでつまずいているのかを認識し対策を考えていくこと重要です。例えば、認知は十分だとしても、他社と比較されて購入に至らない場合は、「選ばれる理由」づくりが必要です。一方、試してみたい・購入したいという意向はあるものの高額のものであれば、初めてのお客様にとっては心理的・金銭的ハードルが高いため、低価格・少量のお試し商品を販売し、まずは利用してもらう(=顧客化)ということを積極的に展開します。その後のフォローによってリピート顧客にしていく手法は、多くの企業ではよく見られる手法の一例です。このマーケティングファネルによる「見える化」によって、今どこに注力すべきか検討することができます。
<3月号の記事>
現場が理解しやすい指標
年末より卸売業を営む企業から在庫管理のご相談を受け支援をしております。卸売業では、全社もしくは営業所単位で共通商品を仕入・販売し、また顧客の個別ニーズに合わせ仕入・販売しています。取扱商品に問わず、共通していることは、売れ筋商品に意識が向き、売れ残り商品には意識が遠退きがちです。
支援先では、販売管理・在庫管理の情報システムを導入しているものの、十分に使いこなしていませんでした。情報システムの機能により、在庫金額が多いもの、また動きが悪い在庫、すなわち滞留在庫の抽出ができ、従来はその機能をもとに対策をしていました。しかし、情報システムの機能を詳細確認すると、対象期間中1個でも販売していると、滞留在庫として見なされません。
そこで今回ご提案したのは、各商品の「在庫保有日数」の算出です。在庫に関する指標は棚卸資産回転率などがあるものの、営業をはじめとした社員にとって理解しにくい指標です。一方、在庫保有日数は、現時点の在庫数÷1日当たりの売上個数(平均)で算出できます。平均売上個数に対して何日分の在庫数量を保有しているかを見る指標です。在庫回転率が○回転というよりも、現在○日分の在庫を持っているという情報の方がより現実味を帯びた指標となります。
そして発注~仕入までのリードタイムを踏まえて、各アイテムの在庫保有日数の上限と下限を設定し、その基準を超えているものを、集中的に販売するように対策を立てていきます。実は重要なのは、その翌月です。対策を実行しているので、多くの商品は在庫保有日数の上限を下回ります。当たり前ですが対策をしたからこそ、在庫保有日数の上限を下回ったのであって、翌月の滞留在庫対策リストから外れると、意識して売らなくなってしまいます。そこでExcelを使って、前月に滞留在庫としてチェックしたものを、翌月にもチェックできるように工夫し、追跡調査ができるようにしました。支援先では、滞留在庫のチェックだけでなく、仕入の見直しを含めて対策を立てており、在庫金額の現状の2/3まで減らすことを目標としております。
財務分析でよく見かける、棚卸資産回転率といった指標をそのまま展開せず、社員が理解しやすい指標を探ることは、対策の定着度合いにも関わってきます。
<2月号の記事>
5年前にご依頼頂いた企業から、この冬、再度支援のご依頼を頂きました。
ある飲食サービス企業にて、5年前に検討したダイレクトメールでの集客・販売が功を奏したようで、今冬訪問したところ、現在では、その対象商品が売上の40%まで占めるまでに至っていました。既存商品の売上が減少する中で、その対象商品を一層伸ばしたいということで、再度ダイレクトメールの見直しのご依頼を頂きました。
ダイレクトメールに限らず、チラシなど顧客にPRをする際に特に一考すべきは、お客様の立場に立って、
「なぜ、あなた(=売り主)から買わないといけないのか?」
「なぜ今、購入(申込み)しないといけないのか?」
という点です。
上記を踏まえながら、ご支援した企業でこれまでうまくいっていた成功パターンを残しつつ、デザイナーと協力し新たにダイレクトメールの作成をおこないました。
こちらが想定した内容がお客様に響くかどうかは正直やってみないと分かりません。ネット販売の業界では、ホームページのパターンを2つ以上の用意し、どのパターンが反応がいいかを検証し、成果の出たパターンを採用するA/Bテストという考え方があります。ダイレクトメールのようなリアルの場合でもA/Bテストのようなイメージでおこなうことをオススメしております。机上で事前に考えることも重要ですが、やってみないと分からないこともあります。こちらの企業では半年後のテストを経て再度検証することとしております。
いろいろな業界で積極的に顧客を獲得したいとのご相談を頂くものの、良さを十分に伝え切れていないケースを感じます。「なぜ、あなた(=売り主)から買わないといけないのか?」「なぜ今、購入(申込み)しないといけないのか?」という点をお客様の立場に立って考えることで、その良さが再整理されると思います。
<1月号の記事(1)>
2016年、みなさまは今年の目標を設定されましたでしょうか?
企業支援における目標設定の重要性はご存じの通りかと思いますが、自分のことになるとついつい後回しになっている方も多いと思います。昨年も前年に引き続き中期経営計画の立案支援・社員の目標管理支援をおこない、また大学でも目標についてお話しする機会を頂きましたので、今回は目標設定についてお伝えします。
目標設定においては「山登り型」「波乗り型」があるとされており、「山登り型」の目標設定とは、目標を明確に描き、それを実現させる詳細な計画を元に、行動や習慣を繰り返し、着実に行動し理想を追求します。企業における目標設定、経営計画はほとんどこのケースが当てはまります。
一方で「波乗り型」の目標設定とは、プロセスを細かく決めず、大きな方向性だけを定めて、人との出会いや機会・自分の直観を元に臨機応変に行動し理想を追求します。先のことをとやかく考えず、目の前のことに全力で取り組むケースです。こちらは個人の場合に多いのではないでしょうか?
「山登り型」「波乗り型」の目標設定にはそれぞれ一長一短がありますが、目標設定の重要性はともに同じです。
そこでお付き合いのある社長からのお話やや読んだ本などの中で印象に残った、目標設定に関する名言がございましたので、皆さまの参考になればと思います。
・1年先、2年先、3年先の「あるべき姿」を持っている人は毎日の仕事が輝き、持たない人は、ただの作業に追われている人です。ジャック・ウェルチ (GE最高経営責任者)
・進むべき方向を知るためには、目的地を決めておかねばならない。そうでないなら、それは仕事をするようなふりをして何かを待っているにすぎない。トム・モナハン(ドミノピザ創業者)
・人生の目標を持たない時、つまらないことで思い悩んで、余計な苦労を背負ってみたり、ちょっとした失敗で直ぐに絶望してしまう傾向にある。ジェームズ・アレン(思想家)
いかがでしょうか?皆さまの今年の目標の設定の参考になれば嬉しく思います。
<1月号の記事(2)>オススメ本のご紹介
人を動かす言葉の技術
黒川裕一 著
本書の題名を見ると、心理学の類いの本かと想像してしまう方もいらっしゃるかも知れません。実は、本書では自分の言葉の使い方を見直し、相手が動きやすくするコツが記されています。著者の黒川氏は私塾「ひなみ塾」の塾長を務めており、その塾では子どもや大人向けに英語などを教えており、多くの生徒が急成長を遂げています。
その秘訣として、「相手が動く言葉づかいで語りかける」ことを重要視しており、そのような言葉遣いを「アクション言語」と著者は命名しています。
では、どのような言葉遣いをしているのかというと、抽象的な言葉をより具体的な言葉に言い換えて、相手が動きやすくしています。
例えば、
・「わかる(理解する)」→「自分ひとりで再現できる」
・「新しい」→「これまでにない組み合わせ」
・「信頼」→「確認の数が少ない」
などに置き換えています。
本書は仕事でよく使われがちなビジネス用語の言い換え表があるほか、抽象的な言葉をより具体的な言葉に置き換える手法を提示しています。図表も多用されており読みやすくまとめられています。若い方に教える機会が多い方や、マニュアルなどを作る方にもオススメの一冊です。
大企業・中小企業・行政関係者など業界・職種問わず1000人以上のビジネスパーソンと面談して、見えてきた仕事がデキる人のコツ。「分ける」たったこれだけで、周りの評価が一変します。
フォレスト出版より2022年1月13日に発売します。
https://www.amazon.co.jp/dp/4866801476/
・いつも仕事が時間通りに終わらないので残業や休日出勤が多い
・うっかりミスや見落とし、やり直し、上司からのダメ出しが多い
・仕事の段取りを組んだり、計画を立てるのが苦手
・上司や取引先から「何を言いたいのかわからない」とよく言われる
・トラブルが起きると頭の中が真っ白になってどうしたらいいのかわからなくなる
など、 本書はこのような仕事の「できない」をなんとか解消したいと日頃からお悩みの若手ビジネスパーソンの皆さま、そしてそうした部下をお持ちの管理職の皆さまへの処方箋です。
仕事の成果は、頭の良し悪し、センス、才能ではなく、「分ける」かどうかで決まるのです。